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腸チフス

Typhoid Fever

解説:村中 裕之 (熊本病院 TQM部 感染管理室・医療安全管理室・品質管理室 室長)

腸チフスはこんな病気

チフス菌は食中毒を起こす菌として知られているサルモネラ菌の一種で、この菌に感染することで腸チフスになります。腸チフスは、水や食べ物を介して人の身体に入り発症する、経口感染症です。日本語では「腸チフス」という病名がついていますが、世界的には「チフス熱(typhoid fever)」または「enteric fever」が一般的です。主な症状は発熱です。発展途上国を中心に、毎年約2000万人の患者が発生し、約20~30万人が死亡しています。日本でも年間に50例前後発生しており、その80%が海外での感染ですが、日本国内での感染も20%程度あるので、油断はできません。

腸チフスの発生件数(1991年~2001年)
腸チフスの発生件数(1991年~2001年)

腸チフスの症状

腸チフスは、7~14日の潜伏期間を経て、38~40℃の発熱が起こり、頭痛、寒気、身体のだるさなどを伴います。一般的な食中毒のような下痢、食欲不振、吐き気、おう吐といった症状が出ますが、便秘気味になる症例も多くみられます。
特徴的な症状は以下の3つが挙げられます。

1 高熱のわりに脈拍数が少ない
2 脾臓(ひぞう)が腫れる
3 バラ疹が現れる
※バラ疹とは、ピンク色の発疹が胸やおなか、背中に現れる症状のことです。

発熱以外の症状がほとんどみられないこともありますが、これも腸チフスの特徴のひとつです。

腸チフスの診断と治療法

診断で最も重要なのは腸チフスを疑うことです。
症状、理学所見(視診・触診など)はもちろんですが、最近の渡航歴および渡航先での食事、衛生状況などの情報も重要です。「外務省海外安全ホームページ」の医療・健康関連情報といった感染症情報が役に立ちます。
腸チフスが疑われる場合、血液、便、尿などの培養検査が行われます。

腸チフスは3~4週間で自然に回復しますが、腸穿孔(ちょうせんこう/腸壁に孔が開くこと)や腸出血などの合併症が15~20%の確率で起こり、死亡する場合もあります。また、再発したり、チフス菌保菌者になったりすることもあるので、しっかりと治療を受ける必要があります。
治療には、主にニューキノロン系という抗菌薬が使用されますが、インドにはこの抗菌薬に対する耐性菌も多いため、インドへの渡航歴がある場合は様子をみながらさまざまな抗菌薬の使用が検討されます。また、再発や合併症を防止するために、症状が治まっても5~14日間は連続して抗菌薬を使用する必要があります。最終的には、便の培養検査が陰性であることを確認してから薬の使用を中止します。

予防の基礎知識

腸チフスは世界中でみられる感染症です。特に、日本を除くアジア、アフリカ地域では衛生環境が悪いので、注意が必要です。海外に行く際には「外務省海外安全ホームページ」で、行先の医療事情を事前に調べるようにしましょう。

予防法としては、手洗いなどの基本的な感染症対策が重要です。生水、生肉、生野菜などから感染する恐れがあるので、腸チフスが流行している地域では注意しましょう。特に、カットフルーツやサラダなどは食材を洗った水自体が汚染されている可能性があります。また、チフス菌は加熱により死滅するので、しっかりと火が通ったものを食べるようにしましょう。
腸チフスには有効なワクチンがありますが、現在日本では未承認です。接種を希望する場合には、輸入ワクチンを扱っている医療機関を「厚生労働省検疫所FORTHのホームページ」から調べることができます。ただし、未承認のワクチンなので、医師と十分に相談したうえで接種するようにしましょう。

参考
外務省HP「在外公館医務官情報<各論1 腸チフス>」http://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/kakuron01.html
国立感染症研究所感染症情報センターHP「感染症発生動向調査週報<腸チフス・パラチフス>」
http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k02_g1/k02_05/k02_05.html

村中 裕之

解説:村中 裕之
熊本病院
TQM部 感染管理室・医療安全管理室・品質管理室 室長

※当欄に執筆した医師の所属・役職は、異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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