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精巣腫瘍(精巣がん)

Testicular cancer

解説:上領 頼啓 (豊浦病院 院長)

精巣腫瘍(精巣がん)はこんな病気

精巣(旧名:こう丸)の働きは、生殖に関わる精子を形成し、男性ホルモンを分泌することです。精子は、精細管の精細胞(生殖細胞)が分裂することによって形成されます。精細管の間には、ライディッヒ細胞があり、ここから男性ホルモンが分泌されます。
精巣腫瘍には、生殖細胞から発生する「胚細胞腫」や、精細管の支持組織であるセルトリー細胞から発生する「セルトリー細胞腫」、前述のライディッヒ細胞から発生する「ライディッヒ細胞腫」、「悪性リンパ腫」などがあります。このうち、「胚細胞腫」が患者さんの95%以上を占めるので、本稿では胚細胞腫について解説します。
胚細胞腫は、男性10万人に対して1~2人が発生します。男性悪性腫瘍の1~2%に当たり、頻度は高くありません。幼児期と20歳~30歳代の青壮年層で発症することが多く、特に、青壮年層に発生する固形腫瘍(特定の臓器にある腫瘍のこと)の中では、最も多い悪性腫瘍です。
胚細胞腫は、胚細胞から生じる腫瘍の総称です。分化する過程によって、さまざまなタイプに分けられます。治療方針を立てる場合や、経過の予測に都合がよいため、大きく分けて、セミノーマと非セミノーマに分類します。

1.セミノーマ

胚細胞腫のうち、40~50%を占め、最も頻度が高い腫瘍です。15%の確率で、非セミノーマが混在しているケースがあるので、この場合は、非セミノーマとして分類します。がんの目印となる物質である「腫瘍マーカー」を検査すると、5~20%にhCGβの値が上昇していることが認められます。そのため、類似の結果を示す絨毛がん(じゅうもうがん/胎盤の母体に接する部分にある細胞のがん)と見分けることが必要です。セミノーマは、放射線治療による効果が、他の腫瘍に比べて最も高いことが特徴です。

2.非セミノーマ

(1)胎児性がん
胚細胞腫のうちで最も未熟で、悪性度は最も高い腫瘍です。血管へがんが進行したり、後腹膜(腹部の背側)へ転移したりすることが多く見られ、予後は不良です。腫瘍マーカーの検査では、hCGβ、AFPの値が上昇します。単独で生じることは少なく、多くは他の腫瘍と合併して発症します。精巣腫瘍の40%を占め、セミノーマの場合より10歳若く、10~35歳がよく発症します。セミノーマに比べて、小さな腫瘍です。

(2)卵黄のう腫
幼児期に発症がよく見られ、予後は良好です。成人で発症した場合は、他の精巣腫瘍(奇形腫、胎児性がん)との混合で発生し、悪性です。腫瘍マーカーの検査では、一部にAFP陽性を示します。

(3)絨毛(じゅうもう)性腫瘍
胎児性がんと同様に、悪性度の高い腫瘍です。通常は、他の精巣腫瘍との混合型で、15~30歳に発症がよく見られます。精巣が腫れて大きくなることは少なく、初診までに脳出血、喀血(かっけつ)など広範にがんが転移している症状を示すことがあります。腫瘍マーカーの検査では、hCGβ陽性を示します。

(4)奇形種
幼児期と思春期でよく発症します。幼児期に発症した場合、他のがんが発生していることがなく、予後は良好です。しかし、成人で発症した場合は、混合型で悪性です。

(5)混合型腫瘍
2種類以上のタイプを持つ腫瘍です。胚細胞腫の30%を占め、セミノーマに次いで多く見られます。

早期発見のポイント

精巣腫瘍はまれな疾患です。しかし、成人で発生する場合は悪性で、好発年齢が20~30歳代の前途有望な青壮年層であるため、社会的な面でも注意が必要な疾患です。そのため、他の悪性腫瘍と同様に、早期発見・早期治療が大切なことは言うまでもありません。特に、精巣は容易に触れることができるので、精巣に腫瘍があれば、手などで圧迫することによって腫瘍細胞の転移を引き起こす恐れがあります。そのような意味でも、早期発見と共に早期治療もきわめて重要です。しかし、発症が見られる年齢が若年層ということから、羞恥心で受診が遅れ、診断時にはすでに後腹膜のリンパ節への転移が見られることがあります。
発生リスク、症状を把握して、早期発見・早期治療につなげましょう。

発生リスク

1 停留精巣(陰のうの中に精巣がない状態)の場合は、精巣腫瘍の発生リスクは約5倍(精巣腫瘍の10%は停留精巣の方です)

2 家族に精巣腫瘍の方がいる場合、発症のリスクは3~10倍

3 精巣炎や精巣外傷の経験がある場合は、精巣萎縮を生じるため、確証はまだないが、精巣腫瘍発生の危険因子と言われている

4 精巣腫瘍が発生すると、もう片方の精巣にも腫瘍が発生することがある

5 幼児期、20~30歳代に発症がよく見られる

症状

1 陰のうが痛みのないまま腫れて大きくなる

2 精巣痛(患者さんの約10%が、精巣内腫瘍の出血や梗塞が原因で起こる)

3 女性化乳房や乳頭痛(約3%に見られる)

4 若年男性で首の腫瘤(しゅりゅう/こぶ)、せき、消化器症状などが見られる(精巣腫瘍の転移による症状である可能性がある)

幼児期は、入浴時に発見されることが多いので、両親は上記の症状がないか注意しましょう。また、すでに転移していても、まれに元々の腫瘍が小さくなり、陰のう内に精巣腫瘍が認められない場合があります。


精巣腫瘍かなと思ったら -検査・診断方法-

精巣腫瘍の診断のためには、超音波、CT、MRI、FDG-PETの検査が有効です。セミノーマの場合は、触診すると、固く、重くずしりとした重量感があります。これは、精巣内が硬結(こうけつ/本来軟らかい組織が固くなること)しているためです。胚細胞腫の種類を推定するためには、腫瘍マーカーを検査します。若年層の男性で、胸部X線で縦隔(じゅうかく/左右の肺の間を指し、心臓、気管、食道などが存在している場所)や肺に腫瘍が見られる場合は、精巣腫瘍の転移を疑って精巣を検査します。また、類似の症状がある陰のう水腫、精巣上体炎などと見分けることが必要です。
参考に、腫瘍マーカーの検査で示す値と胚細胞腫の分類について以下に示します。

・hCGβ
絨毛がんで高い値、胎児性がん・セミノーマで異常値を示す。

・AFP
卵黄のう腫瘍・胎児性がん・未熟奇形腫で異常値を示す。セミノーマ・絨毛がんでは見られない。

・LDH
全てのタイプで値の上昇が見られる。

精巣腫瘍の治療法

セミノーマと非セミノーマでは治療方針が異なり、また、病気の進行具合によって治療法を決定します。進行期は以下のように分類されます。

I期:転移なし

II期:横隔膜以下のリンパ節に転移がある
 II A:後腹膜への転移巣が5cm未満
 II B:後腹膜への転移巣が5cm以上

III期:遠隔転移が見られる
 IIIO:腫瘍マーカーは陽性になるが、転移部位が不明
 IIIA:縦隔、鎖骨リンパ節に転移を認めるが、その他の部位には認めない
 IIIB:肺に転移を認める
  B1:転移巣が4個以下で、最大径が2cmより小さい
  B2:転移巣が5個以上で、最大径が2cm以上
 IIIC:肺以外の臓器にも転移がある

以下の順序・方針で治療法を決め、治療を行っていきます。

1 精巣腫瘍と診断したら、高位精巣摘除術(精巣を摘出すること)を行う
2 病理学的診断でセミノーマと非セミノーマに分類する
3 画像、腫瘍マーカーなどの検査を行い、腫瘍の病期分類を行う
4 セミノーマと非セミノーマの混合型は非セミノーマとして治療する
5 セミノーマでもAFPの値が高い場合は非セミノーマとして治療する
6 セミノーマでhCGβが上昇していてもセミノーマとして治療する
7 精母細胞性セミノーマは転移しないので、その場合、治療は精巣摘除のみ


セミノーマの場合

セミノーマは、放射線の効果が高いので、放射線療法を第一に選択します。

病期I

・経過観察

・腹部傍大動脈に、転移を予防するため放射線を照射

・シスプラチン単剤の抗がん剤による化学療法を1~2コース実施

※再発しても化学療法で100%治癒が可能です。

病期IIA

・リンパ節へ転移した腫瘍の大きさが5cm未満の場合は、放射線による治療を第一に選択(照射範囲は腹部と腫瘍がある側の骨盤部分)

・リンパ節へ転移した腫瘍の大きさが5cm以上の場合は、数種類の抗がん剤を組み合わせて投与する「多剤併用抗がん化学療法」を第一に選択

※再発しても化学療法で100%治癒が可能です。

非セミノーマの場合

非セミノーマは、放射線の効果が高くないので、シスプラチンを中心とした多剤併用抗がん化学療法を選択します。

病期I

・リンパ節や血管にがんが進んでいない場合は、経過観察

・リンパ節や血管にがんが進んでいる場合は、再発予防として多剤併用抗がん化学療法を2コース行う。あるいは、後腹膜のリンパ節を切除する

※治癒率は100%です。

病期IIA

・後腹膜リンパ節の転移巣が2cm以下で、腫瘍マーカーが陰性の場合は、後腹膜のリンパ節を切除

・後腹膜リンパ節の転移巣が2cm以下で、腫瘍マーカーが高い値を示し続ける場合や、あるいは2cm以上の場合は、多剤併用抗がん化学療法を3~4コース行う

※治癒率は98%です。

病期IIB以上の場合

セミノーマと非セミノーマの場合も共通で、進行性の精巣腫瘍です。化学療法が選択され、IGCC(国際胚腫瘍分類)のリスク分類に沿って治療を行います。

1 導入化学療法

・多剤併用抗がん化学療法を3~4コース行う。化学療法後に、腫瘍マーカーが正常化し、画像検査で腫瘍が残存していない場合は経過観察だが、残存している場合は、後腹膜リンパ節を切除する。

※治癒率は60%、5年生存率は70%以上です。

2 救済化学療法

・多剤併用抗がん化学療法で治癒しなかった症例、あるいは治癒後に再発するといった治癒が困難な例では、当初とは違う薬を使用する多剤併用抗がん化学療法に変更する。

・化学療法後に腫瘍が残っている場合は、切除することで再発率が低下すると言われているので、後腹膜のリンパ節を切除する。

※がんが治って生存する確率は30%。

上領 頼啓

解説:上領 頼啓
豊浦病院
院長

※当欄に執筆した医師の所属・役職は、異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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