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脊髄小脳変性症

Spinocerebellar Degeneration

解説:川尻 真和 (福岡総合病院 神経内科 脳・血管内科部長)

脊髄小脳変性症はこんな病気

小脳は後頭部の下側にある脳の一部です。その主な役割は、運動と知覚の統合、平衡感覚、筋肉の緊張と動きの調節です。小脳が障害されると、歩行時にふらついたり、細かい運動ができなかったり、お酒に酔ったようなしゃべり方になったりします。このような症状を「運動失調」と呼びます。

運動失調の原因には、下記のような病気が挙げられます。

脳梗塞、脳出血などの脳血管障害(脳卒中)
・ウイルス性脳炎、細菌性脳炎などの感染症
・アルコールや睡眠薬、化学薬品などの中毒
・悪性腫瘍
・ビタミンE欠乏などの栄養素欠乏
・奇形
・脳の代謝障害
多発性硬化症などの自己免疫性神経疾患
・ミトコンドリア脳筋症
・プリオン病

脊髄小脳変性症とは、上記のようなはっきりとした原因がないままに、小脳とその周辺の神経細胞が変性して、運動失調をきたす病気です。
ちなみに、「変性」とは、神経細胞が変化して機能不全におちいり、萎縮して、最終的には死滅してしまう現象です(神経変性)。変性した神経細胞では、その内部に異常な物質が蓄積したり、正常な物質が過剰に蓄積したりしていることが分かっています。

分類

脊髄小脳変性症には「遺伝性」と「非遺伝性(孤発性)」があります。さらに、非遺伝性には、「皮質性小脳萎縮症」と「多系統萎縮症」に分けられます。

脊髄小脳変性症の分類
脊髄小脳変性症の分類

全国で約3万人の脊髄小脳変性症患者がいると推定されており、その3分の1が遺伝性であるといわれています。

原因

遺伝性脊髄小脳変性症の多くでは、神経変性の原因となる遺伝子が突き止められ、その遺伝子の働きや、病気になるメカニズムが分かりつつあります。非遺伝性脊髄小脳変性症に関しては、はっきりとした原因は分かっていません。

症状・経過

運動失調が徐々に進行していくことが共通した症状です。多系統萎縮症では、運動失調に加えて、パーキンソン症状(動きの緩慢さ、関節の動かしにくさ、すくみ足)、自律神経症状(便秘や下痢、排尿障害、起立時のめまい、インポテンツ)などが生じます。
経過には個人差がありますが、一般的に症状はゆっくりと進みます。多系統萎縮症の場合は進行が比較的早く、発症後平均約5年で車椅子使用、約8年で臥床状態(がしょうじょうたい/寝たきりの状態)となるとの報告があります。

診断

専門医による神経学的診察、血液検査、神経生理学検査(脳波など)、画像検査(MRIなど)により診断が行われます。

脊髄小脳変性症患者の頭部MRI画像(T1強調画像)

遺伝性が疑われる場合、遺伝子診断を検討することもあります。遺伝子診断に関しては、「成人の方で、その病気や遺伝などについて十分な説明を受け理解されており、その上でご本人(変異遺伝子を有しているかもしれない当該人)の自発的な意思でご本人の遺伝子診断を受ける。(厚生労働省難病情報HPより)」というような状況の場合に、遺伝子診断が可能になりつつあります。結果は、本人と家族にとって精神的な負担となることがありますので、臨床遺伝専門医や遺伝カウンセラーによるサポートを継続的に受けるなどさまざまな配慮が必要です。遺伝子診断は遺伝性脊髄小脳変性症すべてで可能なわけではありません。

治療法

神経変性を元の正常な状態に戻したり、変性の進行を止める治療法はありません。現時点では、症状を和らげる対症療法を行います。運動失調に対して、甲状腺ホルモンの刺激剤である「セレジスト(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン誘導体)」が使われます。運動失調の進行するスピードを緩める効果があります。
その他、病気の進行に伴って生じるさまざまな症状を緩和する薬の服用や、生活の質を維持するためのリハビリテーションを行います。

早期発見のポイント

運動失調症状(歩くのがふらついたり、細かい運動ができなかったり、お酒に酔ったようなしゃべり方になったりします)を自覚したら、早めに神経内科を受診することをおすすめします。

脊髄小脳変性症自体は、早期発見してただちに治療を開始しないと手遅れになる病気ではありませんし、運動失調を引き起こす神経変性を根治する治療法はまだありません。しかし、「医学解説」でも述べたように、運動失調の原因となる病気は、脊髄小脳変性症の他にたくさんあり、そういった病気は早期発見・早期治療が大変重要です。特に、脳血管障害(脳卒中)では、1分1秒を争うことがあります。このような重篤な病気を見逃さないためにも、おかしいなと感じたら、すぐに受診するようにしましょう。

また、脊髄小脳変性症は、厚生労働省によって「特定疾患治療研究事業対象病気」に指定されており、申請することにより、医療費の一部の公費負担を受けることができます。早期に診断を確定して申請することで、自己負担を軽減することができます。

予防の基礎知識

脊髄小脳変性症のなかでも、非遺伝性(孤発性)の発症を予防する具体的な方法は分かっていません。特定の生活習慣と発症との関連も指摘されていません。つまり、誰にでも発症しうる病気ということです。遺伝性脊髄小脳変性症においても、原因遺伝子の多くは特定されていますが、治療法や発症を予防する方法に関してはいまだ研究中です。

ただ、家族に遺伝性脊髄小脳変性症の人がいて、自身が将来、脊髄小脳変性症を発症するかどうかについては、遺伝子診断が可能になりつつあります。まだ発症していない人が診断を受ける際は「未発症者診断」と呼ばれます。この場合は、遺伝専門外来のある大学病院など専門的医療機関で、未発症者診断について充分なカウンセリングを受けた方がいいでしょう。ただし、未発症者診断は、すべての遺伝性脊髄小脳変性症に適用できるわけではありません。

川尻 真和

解説:川尻 真和
福岡総合病院
神経内科 脳・血管内科部長

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