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正常圧水頭症(NPH)

Normal Pressure Hydrocephalus

解説:仁木 陽一 (中和病院 脳神経外科部長)

正常圧水頭症はこんな病気

脳と脊髄は、頭蓋内で脳脊髄液(髄液)という液体に浮いた状態で存在しています。この髄液が、通常より多く頭蓋骨の内側に溜まった状態が「水頭症」です。このうち、腫瘍などにより髄液の通過障害が生じ、髄液が貯留して頭蓋内の圧が上がることを「非交通性水頭症」といいます。一方、くも膜下出血髄膜炎などで髄液の吸収障害が生じ、髄液が貯留することを「正常圧水頭症(Normal Pressure Hydrocephalus:NPH)」といいます。この場合、髄液の交通は妨げられず、さほど頭蓋内圧が上がりません。

NPHにはくも膜下出血などが原因で生じる二次的なものと、その原因が分からない「特発性正常圧水頭症(iNPH)」があります。iNPHは加齢に伴い増加するといわれており、65歳以上の有病率は0.5~2.9%で、10万人あたり250人の方が罹患していると推定されます。なお、iNPHは認知症患者の5%を占めるといわれ、近年は治療可能な認知症として注目されています。

正常圧水頭症の症状

「歩行障害」「認知機能の低下」「失禁」がNPHの3大徴候として知られていますが、いずれの症状も加齢に伴い出現することがあります。そのため、症状が出ても年齢に伴うものと思われがちで、病気が進行するまで気づかないことが多いのも事実です。治療可能な認知症といわれていますが、症状が進行するとやはり障害が残ることは避けられず、他の病気同様に早期発見が重要であることは間違いありません。

正常圧水頭症の診断

診断はMRIやCTなどの画像診断に加えて、腰椎穿刺(せんし/針を刺し液体を採取すること)で髄液を採取し、髄液の排出により症状が改善するかどうか(タップテスト)で診断します。
MRIやCTでは、ただの脳萎縮とは違う特徴的な像がみられます。CTでは、脳室拡大とともに脳室周囲に低吸収域がみられることがほとんどです。MRIでは、DESH(Disproportionately Enlarged Subarachnoid-space Hydrocephalus)といわれる特徴的な像を示します。DESHとは、大脳の底部では委縮が目立つのに、大脳の上部(頭頂部側)では脳の皺が目立たない状態のことです。そして、タップテストで認知機能や歩行速度などが改善すれば、NPHと診断されます。なお、腰椎穿刺の際に、髄液圧が正常範囲(200mmH2O)を越えないことから、正常圧水頭症といわれます。
以上のように、診断は比較的容易であり、治療方法も確立されているため、早期発見・早期診断が最も重要です。

早期発見のポイント

「医学解説」で述べたとおり、正常圧水頭症(NPH)の代表的な症状は「歩行障害」「認知機能の低下」「失禁」です。その中で一番初めに出現する症状は、歩行障害といわれます。一言に歩行障害といっても色々なタイプがあります。なかでも特徴的なものは、足を広めに開けて、ヨチヨチとアヒルのように歩くような歩行障害です。ただし、すべての方がこのような歩行障害となるわけではありません。なかにはパーキンソン病のような小刻み歩行になる方もいます。次に生じるのは、認知機能の低下です。話をするのが上手で認知症のようには感じられなくても、認知症のスクリーニングテストをするとかなりの点数低下がみられます。病気が進行すると最後に尿失禁を生じますが、すべての症状がそろうわけではありません。また、必ずこの順番で症状が出現するとも限りません。

早期発見のためには、「歩行がおかしい」と感じたときにNPHを疑うことが最も重要です。物忘れが多くなり「認知症では?」と感じたときにも、すぐに抗認知症薬を処方してもらうのではなく、CTやMRIなどの画像診断を必ず受けるようにしましょう。
原因が不明の特発性正常圧水頭症(iNPH)には診療ガイドラインがあり、どこの施設であっても専門医であれば適切な診療を受けることができるようになっています。

治療法

正常圧水頭症(NPH)の治療は手術です。
一般的に「シャント手術」といわれる短絡術を行います。最も行われているシャント手術は「脳室腹腔短絡術」です。「腰部くも膜下腔腹腔短絡術」や「脳室心房短絡術」も行われます。これらの手術は、基本的には頭蓋内にたまった髄液を、ほかの場所に流すという方法です。手術には全身麻酔が必要ですが、短時間で行うことができます。

代表的な脳室腹腔短絡術の方法を簡単に説明します。
まずは、髄液を産生する脳室という場所を細いチューブで穿刺(せんし)します。次に、頭部から頚部、胸部、腹部と皮下にチューブを通し、腹腔内にそのチューブを誘導し、腹腔内に髄液を排出します。チューブの途中にはバルブがついており、髄液の流れる量を一定に保つことができます。以前は、髄液の流れる量を変えるには、再度手術を行って、バルブを交換しなければなりませんでした。現在では、圧変換式バルブを用いることによって、手術することなく簡単に皮膚の上から流れる量を変えることができるようになりました。手術の際の傷も、小さな傷が数カ所にみられるだけです。手術による侵襲(しんしゅう:生体を傷つけること)は大きくなく、高齢の方でも全身に大きな負担をかけることなく受けられる手術です。ただし、チューブの多くはシリコン製で十分な耐久性がありますが、チューブの閉塞や感染症の合併により、チューブの抜去や再建術が必要になる場合もあります。

このように、NPHは手術によって治る病気ですが、診断が遅れて病状が進行していた場合や、他の疾患(認知症など)を合併している場合は、十分な改善が得られないこともあります。この手術による症状の改善率は3年で80%程度といわれています。
もう一度最後に述べますが、NPHは早期発見が必要な病気です。歩き方がおかしい、物忘れをすると気づいたときに、ただの年のせいであるとか、ただの認知症だと断定するのではなく、おかしいなと思いはじめたときに医療機関を受診することが重要だと考えます。

仁木 陽一

解説:仁木 陽一
中和病院
脳神経外科部長

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