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低髄液圧症候群

Intracranial hypotension syndrome

解説:松岡 健平 (渋谷診療所 所長)

低髄液圧症候群はこんな病気

まず、髄液のことから説明します。私が研修医として救急外来の修行中、頭にケガをした患者さんが担ぎ込まれたとき、「もし鼻水が出ていたら、髄液が漏れ出ていると思え」と教わりました。髄液とは、脳脊髄液という無色透明の液体のことです。その量は100~150ミリリットル。半分が脳とその周りに、残り半分が脊髄の部分にあります。髄液は、脳の内側にある脳室の脈絡叢で1日に700ミリリットルほど作られ、硬膜という容器に満たされています。脳と脊髄という大切な中枢神経を保持・保護し、神経に必要な成分を補給しています。
硬膜とは、大脳、小脳、脊髄を容れる複雑な形をしたケースです。頭蓋骨の内側では、脳周辺は丸くて大きく、脳と小脳を包み込み、延髄から脊髄にかけて次第に細くなっていきます。脊椎部分では、脊椎管の形と中枢神経線維から末梢神経線維に乗り換える神経根の形状に合わせて、仙骨(尾てい骨)の方へ伸びていきます。硬膜には、たくさんの末梢神経線維の束の通路があります。その通路から、頭部では脳神経(臭神経、視神経など)、脊髄部分では感覚(知覚)神経と手足の筋肉を動かす運動神経の繊維の束が通信回線のように通っています。

脳脊髄液の還流と各部名称

硬膜は字の通り、厚手の和紙のような硬くて丈夫な皮のような感じです。しかし、傷つきやすい材質で、交通事故による頭部打撲、むち打ち症、あるいはスポーツ外傷、尻もちをついたなどという外的なショックにより、髄液が漏れ、髄液の量・圧ともに低下して低髄液圧症候群を発症します。また、手術で腰椎麻酔のため硬膜外に麻酔薬を注射したり、検査目的で髄液を採取したりして、その穿刺部位から髄液が皮下に漏れて、髄液圧が下がり、頭痛、吐き気、めまいなどを起こした経験を持つ方がいると思います。このような場合は、施術後、数日間安静にしていれば自然に治まります。
本症候群の診療にあたる専門医は、脳神経外科か脊椎・脊髄を専門とする整形外科です。治療法の基本は安静に過ごすことで、漏出が止まらないときには、硬膜の外側から自己の血液をのりのように用いて、漏れているところを接着します。

早期発見のポイント

髄液が漏れて量も圧も下がってくるので、以下のような症状がみられます。

・頭痛(立ち上がるとひどくなり、横になるとよくなる)、立ちくらみ、浮遊感
・頚部痛(特に背中側の痛みで、前に曲げるとひどくなる)、背中の痛み
・視力低下(ぼやける)、羞明(しゅうめい/まぶしいと感じる)、復視(ものが二重に見える)
・耳鳴り、めまい、吐き気
・顔面の違和感(しびれ感、神経痛、麻痺)
・腕・手・指のしびれ感、痛み、震え、脱力
・腰痛・下肢の神経痛や筋肉痛
・便通異常、排尿障害

上記のような神経系の症状のほかに、全身倦怠感、集中力・判断力・記憶力の低下、不眠、食欲低下など、精神的・心理的症状を伴うことがあります。こうしたことから心の病と誤解されることもあります。

低髄液圧症候群かなと思ったら―診断と治療法―

仕事中の事故やスポーツ外傷を負ったとき、3時間以内に、立ち上がると悪化する頭痛、めまい、吐き気、倦怠感や脱力を感じたら、低髄液圧症候群の可能性が高いです。治療は安静を保つことが基本です。医学解説の項目で述べた通り、1日に500ミリリットルを越える髄液が作られているので、吐き気や食欲不振で食べられないときは、点滴注射で水分補給をします。
低髄液圧症候群を疑う際は、できるだけ早く専門医の診察を受けるようお勧めします。また、外傷後数日以上経過していても、後遺症かと思われる症状が残っているときにも、健康保険証を持って、家庭医か近所の先生に情報提供書を書いてもらい、専門医のいる病院へ行きましょう。専門医には、自分の自覚症状を正確に話してください。これまで用いた薬の記録(お薬手帳)もあれば持参しましょう。
専門医は、磁気共鳴画像(MRI)、アイソトープを使ったシンチグラム、CT写真などを駆使して、脊髄液の漏出を確かめます。その上で、自己血液注入など特殊な治療の対象か否かを判断します。注意していただきたいことは、この病気がむち打ち症や、あるいは運動外傷で必ず起こるというものではないということです。

予防の基礎知識

低髄液圧症候群を誘発するような、交通事故による頭部打撲、むち打ち症、スポーツ外傷のようなケガをしないことが第一ですが、事故はいつでも起こり得ます。事故でなくても、尻もちをついたり、力んだり、せきをしたりして硬膜に傷ができることもあるので、高齢化して筋力も骨も衰えている人は、転ばぬ先の杖が大切です。つまり、散歩など適切な運動を継続し、家の中には階段や廊下に手すりをつけ、つかまることのできる家具などを配置するようにしましょう。戸外の散歩でなくても、家の中は結構なジムになるのです。
髄液は、脊髄のいたるところで漏れる可能性があり、特に腰部付近で漏れることが多いと言われています。椎間板ヘルニア脊柱管狭窄症を患った人、あるいは脊椎の手術を受けた人は要注意です。はっきりした外傷の記憶がなくても、立ち上がるとひどくなり、横になるとよくなるような頑固な頭痛があるときには、躊躇せず、医師に診せてください。

蛇足ですが、筆者はこの病気の専門家ではありません。糖尿病が専門で、特に糖尿病の神経障害を専攻している関係で、患者さんから息子さんのスポーツ外傷のことで質問を受け、その後何人かから質問を受けたので、済生会渋谷診療所のミニコミ紙『健康渋谷人 2006年10月号』(済生会渋谷診療所『健康渋谷人 健康Q&A』)にこの病気について執筆しました。これはその記事に新しい情報を入れて加筆したものです。
この疾患は二十世紀の末期に日本で注目され、アメリカでは慢性疲労症候群の中に低髄液圧症候群があると報告されました。未だに、心理的な影響の大きい倦怠感、うつ(鬱)の症状などがあるといった、不明な点が残されています。頭痛、めまいなど不快な症状が執拗に続くことに反応して「うつ」になるのか、この病気の症状として「うつ」があるのか、今後の研究成果を待ちたいと思います。

松岡 健平

解説:松岡 健平
渋谷診療所
所長

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