ホーム >  症状別病気解説 >  急性呼吸窮迫症候群 (ARDS)

急性呼吸窮迫症候群(ARDS)

acute respiratory distress syndrome

解説:黄 英文 (宇都宮病院 呼吸器内科診療科長)

急性呼吸窮迫症候群(ARDS)はこんな病気

急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は、肺炎や敗血症などがきっかけとなって、重症の呼吸不全をきたす病気です。さまざまな原因によって肺の血管透過性(血液中の成分が血管を通り抜けること)が進行した結果、血液中の成分が肺胞腔内に移動して肺水腫を起こします。
1967年に12例の呼吸不全として初めて報告されましたが、その内訳は重症外傷7例(そのうち肺挫傷が5例)、ウイルス性肺炎4例、急性すい炎1例と、いろいろな病気が原因となっていました。現在この病気の原因は、直接肺を障害するものと、間接的に肺を障害するものに大別されます。直接肺を障害するものとして、肺炎や胃酸の誤嚥(ごえん/食べ物や異物を気管内に飲み込んでしまうこと)、肺挫傷、溺水(できすい)などが挙げられ、間接的に肺を障害するものとして、敗血症や重症な外傷、大量輸血などが挙げられます。
アメリカからの報告では、10万人あたり50~80人程度の発症頻度とされており、決して珍しい病気ではありません。原因ごとに、どのくらいこの病気になるか調べられていますが、敗血症の場合は約40%、外傷後の場合は約25%、胃酸の誤嚥後の場合は約20~30%と報告されています。死亡率は治療の進歩によって以前より低下したものの、現在でも30~40%、もしくはそれ以上と考えられています。


急性呼吸窮迫症候群の治療法

まず原因疾患の治療が最優先ですが、さまざまな疾患から発症するために病態(病気の状態)が複雑であり、根本的な治療法がありません。肺炎や敗血症に対する適切な抗生物質を服用することは当然欠かせませんが、人工呼吸管理、薬物療法、全身管理を含め、複数の治療法を組み合わせた治療が必要です。
治療法については人工呼吸管理法と薬物療法に大別されます。人工呼吸管理法としては、肺保護戦略(肺にやさしい治療法)として、少ない一回換気量(一回の呼吸で出入りする空気の量)で呼吸管理を行う「低用量換気法」が推奨されています。そのほかにも、さまざまな換気方法や体外式肺補助装置(ECMO)の装着が試みられています。また、集中治療室で行われる方法ですが、人工呼吸管理下でうつ伏せに体位変換を行う腹臥位換気法(ふくがいかんきほう)も有効であるとされています。
薬物療法として、単独で病状を改善させる薬剤は存在しませんが、個々の病態に応じて一酸化窒素吸入、ステロイドホルモンや好中球エラスターゼ阻害薬の使用、血液を固まりにくくする薬物を使用する抗凝固療法などを選択して治療を行います。

早期発見のポイント

下記の症状が見られると、この病気と診断されます。

1 原因となる疾患の存在
2 1週間以内の急性発症
3 胸部画像で左右両側に陰影が見られる
4 心不全では説明できない症状がある
5 体内の酸素が低下している

さらに、呼吸困難や呼吸不全をきたす心不全肺血栓塞栓症などと、間質性肺炎やアレルギー・免疫学的なものが原因による肺病変ではないと判断するために、さまざまな検査(血液検査、心エコー、胸部CTなど)が必要です。
救急外来や入院診療中に診断されることが多いですが、決してまれな病気ではないため、原因となる疾患をいち早く診断してその程度を把握すること、さらに経過中にこの病気に至ることがあるので、その点を念頭に置いて注意深く経過をみていくことが早期発見に役立ちます。一見呼吸器の病気と関係のない敗血症や輸血、すい炎などからも生じるため、頻呼吸、発熱、息苦しさなどの症状に注意することが重要です。
自宅での判断は非常に難しいため、発熱やせき、痰、息苦しさ、頻呼吸、誤嚥などの症状が生じた場合には、早めに病院を受診して相談するようにしてください。

予防の基礎知識

急性呼吸窮迫症候群はここまで述べたように原因疾患がたくさんあります。肺炎や胃酸の誤嚥、敗血症、多発外傷、急性すい炎、輸血、脂肪塞栓(脂肪細胞が血管を詰まらせる状態)、溺水、刺激性ガスの吸入、心肺バイパス(人工心肺を用いること)、血液製剤投与などさまざまであり、予防できないものも多く含まれます。
かぜや肺炎にかからぬようにワクチン接種を行ったり、嚥下機能(えんげきのう/食物を飲み込み、食道を経て胃に送る機能)に問題のある方は、誤嚥に気をつけることが大切です。また禁煙は基本的な習慣として重要でしょう。

黄 英文

解説:黄 英文
宇都宮病院
呼吸器内科診療科長

※当欄に執筆した医師の所属・役職は、異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

▲ページトップへ