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済生春秋

第64回 うっかりミスは起こる

 日曜日の昼前、のんびりと家でEテレの将棋対局番組を見るのが好きだ。
 「これはうっかりしましたね。敗着です」と、解説者がプロ棋士の指した悪手を評する。プロでも間違う。一手のミスが分かれ道、勝負はつく。プロの棋戦でも二歩で反則負けすることがある。
 プロ野球の試合でも失策は、起こる。どんなに好投しても、失策で負けることがある。贔屓(ひいき)のチームが伝染したように失策プレーが続くと、「何をやっているのだ」とテレビ画面に向かって怒鳴っている。

 プロでもうっかりミスから逃れられない。私は、昔からうっかりミスが多い。
 最近も郷里の富山県高岡に行くため、北陸新幹線に乗ったとき、買い求めたお土産の菓子折りを網棚に乗せた。普段は持ち慣れない荷物なので、降りるときに置き忘れてしまった。
 こんなこともあった。贈り物への礼状を書こうと思って、机の引き出しを探すと、都合のよいことに未使用の葉書1枚があった。さっと書いて出した。すっきりした気分になった。投函した後、「あれは52円の古い葉書だった」と思い出したが、後の祭り。相手に悪いことをした。

 うっかりミスを防ぐため、いろいろと対策を試みている。
 ミスは、あわてているときに起こりやすい。ホテルで急いでチェックアウトすると、部屋の衣文掛けに前日着たワイシャツを忘れる。
 年を取ると、十分余裕を見て行動しているが、突発的に行動しなければならないときもある。
 同時に二つのことをやろうとすると、ミスが生じる。お湯をガスレンジで沸かしているとき、玄関に客が来て応対していると、お湯を沸かしていることを忘れてしまう。やかんが沸騰する音を聞いてはっとする。まず一つのことに集中しようと心がけている。

 ミスをしない最善の方法は、何もしないことである。これが無理なら冒険をしないことかも知れない。
 公務員時代は、この類の方がかなりいた。新規事業を提案すると、問題点を次々に指摘する。この面では天才的だ。失敗すると、「だから止めろと言っただろう」というセリフを何度聞かされたことか。

 「失敗は成功の母」である。「失敗は人にあり、寛恕(かんじょ)は神にあり」という。こんな諺に慰められながら、これからもうっかりミスを重ねていく。

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

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